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北朝鮮の金正日総書記が死去し、三男の正恩氏が金一族3代目の最高指導者に就任してから10年となる。
十分な政治経験を積む間もなく、後継内定から3年で独裁者となった正恩氏は、側近や親族を処刑したり、海外で暗殺したりする粛清を重ねてきた。祖父の金日成主席や父と同様、恐怖政治をためらわない人物である。
軍事的には日本や地域の平和と安定にとっての脅威であり続けている。核・ミサイル戦力の開発を進め、国際社会が放棄を求めても拒んできた。日本人拉致被害者再調査などに関する「ストックホルム合意」に基づく調査の中止を一方的に表明し、拉致被害者の解放を頑(かたく)なに拒み続けているのも正恩政権である。
日本を含む国際社会や囚(とら)われたままの拉致被害者、圧政に苦しむ北朝鮮の人々にとって、残酷かつ不毛な10年だった。
スイス留学経験のある正恩氏は20代で独裁者になったが、核・ミサイル戦力増強を最優先とする姿勢は少しも変えなかった。
2013年以降、4度の核実験を繰り返し、17年には新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)を試射して、「国家核戦力の完成」を宣言した。
その後、外交攻勢に転じ、韓国の文在寅大統領や、史上初の米朝首脳会談を行ったトランプ米前大統領との間で、「朝鮮半島の非核化」を確認したが、まやかしにすぎなかった。米国との交渉決裂後は、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)や変則軌道の弾道ミサイルなどの新兵器の実験を繰り返している。経済は、国連の制裁や新型コロナウイルスによる国境封鎖もあって破綻状態だ。
昨年10月の演説では涙を流し、国民の生活苦を解消できていないことを謝罪したが、うわべの姿にすぎない。
今年1月の朝鮮労働党大会では父の肩書だった総書記に就任した。その前後から、金日成主席の代名詞でもあった「首領」という呼称が、正恩氏に用いられるようになっている。だが、独裁を強めても北朝鮮の前途に光明が見えるわけもない。
北朝鮮国民の生活苦を解消し、国を発展させるには独裁放棄しかない。正恩氏は圧政をやめ、拉致被害者の解放と核・ミサイル戦力の放棄に踏み切るべきである。
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2021年12月19日付産経新聞【主張】を転載しています